BZ057:ヤブカンゾウ Hemerocallis fulva——三倍体クローンと一日花の生化学

植物図鑑 BZ057

医スク学術体系 | ボタニカルサイエンス 図鑑 BZ057 Last updated: 2026-05-20

ヤブカンゾウの花(Photo: KENPEI / CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons)


基本分類

項目 内容
和名 ヤブカンゾウ(藪萱草)
別名 ワスレグサ(忘れ草)
ラテン名 Hemerocallis fulva (L.) L.
英名 Orange day lily, Tawny daylily
ススキノキ科(Xanthorrhoeaceae)※旧ユリ科
キスゲ属(Hemerocallis
染色体数 3n = 33(三倍体——種子をほぼ結ばない)
原産地・分布 中国・東アジア原産。日本では古代に渡来、現在は全国の草地・林縁・道端に帰化
生活型 多年草(草高60〜100cm)
開花期 7〜8月

形態の特徴

  • :橙赤色の大きな花、直径約10cm。一日花(day lily)——朝に開いて夕方には萎む。1株から多数の花茎を出し、次々と開花する
  • 重弁花:ヤブカンゾウは八重咲き(petals multiple)で、これは三倍体による染色体異常の影響。野生のノカンゾウ(二倍体)は一重咲き
  • :線形、長さ30〜60cm、根元から束生
  • :紡錘形に膨らんだ塊根(tuberous root)を持つ

三倍体と無性繁殖

ヤブカンゾウは染色体数が3n=33の三倍体で、有性繁殖(種子形成)がほぼできない。もっぱら根茎の分裂によるクローン繁殖で広がる。日本に自生するヤブカンゾウは全て遺伝的にほぼ同一のクローン集団と考えられており、古代中国から1株(あるいは少数)が持ち込まれて日本全国に広まったという説がある。「同じ顔の花が日本中に咲いている」という意味では、これほどの成功した帰化植物も珍しい。


主要フィトケミカル・活性成分

化合物 分類 主な生理活性
コルヒチン(colchicine) アルカロイド 抗炎症(痛風治療薬)・細胞毒性・有糸分裂阻害
ヘメロカリン フラボノイド 抗酸化
カロテノイド(β-カロテン等) テルペン 橙色の色素・抗酸化

重要: コルヒチンは微量ながら含有される。猫に対しては腎毒性を示すことが報告されており、ペットのいる家庭での植栽には注意が必要。


生態・観察ポイント

夏の草地・林縁で目立つ橙色の大輪花。一日花であることから英名 day lily。朝に観察すると新鮮な花が開き、夕方には萎んで次の蕾が翌朝開く様子を連日観察できる。訪花昆虫はアゲハチョウ類・クマバチが主。


人との関係

若芽(春)・花蕾・花・根を食用とする。中国料理では干した花蕾「金針菜(きんしんさい)」として炒め物・スープに使う。万葉集に「ワスレグサ」として登場し「憂いを忘れさせる草」として詠まれた(ただし薬理的な鎮静作用は未確認)。


BZ057 | Last updated: 2026-05-20 | 医スク学術体系「ボタニカルサイエンス」図鑑

Photo credits: 1. KENPEI / CC BY-SA 3.0 — via Wikimedia Commons

🔗 関連記事

BZ058:クズ Pueraria montana——葛根湯の原料と北米を席巻した侵略者
植物学
BZ058:クズ Pueraria montana——葛根湯の原料と北米を席巻した侵略者
BZ056:ハンゲショウ Saururus chinensis——葉が白くなる半夏生の植物
植物学
BZ056:ハンゲショウ Saururus chinensis——葉が白くなる半夏生の植物
BZ059:クスノキ Cinnamomum camphora——カンファーの化学と樹齢1000年の巨木
植物学
BZ059:クスノキ Cinnamomum camphora——カンファーの化学と樹齢1000年の巨木

植物学 の他の記事

← 前の記事
BZ056:ハンゲショウ Saururus chinensis——葉が白くなる半夏生の植物
次の記事 →
BZ058:クズ Pueraria montana——葛根湯の原料と北米を席巻した侵略者
← 記事一覧に戻る