週刊たなおろし医療時評 #005:【厚生労働省】インフルエンザ・COVID-19の定点報告数、2026年春の「平穏」は本当か?サーベイランス基準変更という静かな地殻変動
インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(厚生労働省)

3行まとめ
- 2026年第13週(3月23日〜29日)のインフルエンザ定点当たり報告数は全国6.46と前週比33.7%減、新型コロナウイルス感染症は0.96と前週比10.3%減。いずれも警戒レベル以下で推移している。厚生労働省
- 2025年第15週(4月7日〜13日)より、急性呼吸器感染症サーベイランスの開始に伴い定点医療機関の設置基準が変更された。厚生労働省は「データの解釈には留意が必要」と注記しているが、変更前後のデータは事実上、連続性を持たない。厚生労働省
- 北海道のインフルエンザ定点報告数は14.40と全国最高水準を維持しており、「全国的な収束」と「地域的な高止まり」が同時進行するという、いつもながらのヘテロジーニアスな状況が続いている。厚生労働省
💉 毒舌メタコメント
数字だけ見れば「春の平穏」である。インフルエンザは6.46、COVID-19は0.96。国民の大半が検査を受けなくなって久しく、医療機関を受診するハードルも上がった今、この数字が「感染の実態」を正確に反映しているかどうか、そもそも誰も確認できない。
それよりも今週のたなおろしが注目したいのは、チャートの下に静かに添えられた一文だ。
「2025年第15週(4月7日~13日)以降の数値は、急性呼吸器感染症サーベイランス開始による定点医療機関設置基準の変更に伴い定点数が変更されているため、データの解釈には留意が必要となります」
「解釈には留意が必要」。これは官僚文学の傑作表現だ。日本語に翻訳すると「前後の数字を比べても意味がありません」である。
感染症サーベイランスの本来の目的は、時系列でのトレンドを継続的に把握し、流行の予兆を早期に検知することにある。しかし、定点医療機関の「設置基準」が変わった瞬間、2023年から積み上げてきた時系列データのデータの連続性は断ち切られる。グラフの折れ線はビジュアル上は続いているが、第15週の前後は異なる定規で測った数字が並んでいる。
なぜ基準を変えたのか。「急性呼吸器感染症サーベイランスの開始」という理由は記載されているが、変更によって定点数がどう変わり、報告数にどの程度の補正が必要なのかは、公表データから即座に読み取ることはできない。「留意してください」という一行が、その問いすべてに蓋をしている。
インフルエンザは毎年秋から冬にかけて定点報告数が急増し、流行期入りの目安とされる「1.00」を超えたところで警報が出る仕組みだ。今年2026年の春は収束傾向にある。来秋、また流行期が訪れたとき、その数字は2025年第15週以前の数字と比較できない。前年比較という最も基本的な分析ツールが、制度変更によって無効化されていることを、日々の報道は指摘しない。
医療行政の「連続性の途切れ」は、往々にして「数字がよくなって見えるタイミング」に起きる。それが意図的かどうかは問わない。ただ、継続性を失ったデータで語られる「平穏」を、額面通りに受け取らない目だけは、常に持っていたい。
