寝ても疲れが取れないのは、体が「空焚き」しているから。漢方で紐解く「陰虚(いんきょ)」のメカニズム
「理屈」通りにいかない夜のために
前回、「深部体温が下がらないと人間は眠れない」という物理学の話をしました。 グリシンを飲み、入浴し、手足から熱を逃がす。これが教科書的な正解です。
しかし、あなたはこう思ったはずです。 「理屈は分かった。でも、なぜ俺の体温は下がらないんだ?」
布団に入ると、手足がポカポカどころか、カッカと熱い。 胸がざわついて、掛け布団を剥ぎたくなる。 ようやく眠っても、寝汗びっしょりで目が覚める。
もし心当たりがあるなら、あなたの体で起きているのは「ただの不眠」ではありません。 エンジニアリングで言うところの「冷却システム故障(System Failure)」です。
東洋医学ではこれを**「陰虚(いんきょ)」**と呼びます。 今回は、あなたの体で起きている「空焚き」の正体と、絶対にやってはいけない「間違った努力」について解説します。
1. 漢方視点のエンジニアリング。「陰虚」とは何か?
漢方医学において、体は「陰(Yin)」と「陽(Yang)」のバランスで制御されています。 これを車のエンジンに例えると、非常に分かりやすくなります。
- 陽(Yang):エンジン、アクセル、熱エネルギー。 仕事をバリバリこなすために必要なパワーです。交感神経と言い換えてもいいでしょう。
- 陰(Yin):ラジエーター液(冷却水)、ガソリン、潤い。 過熱したエンジンを冷まし、鎮静化させる物質です。血液や体液、副交感神経がこれに当たります。
健康な状態とは、エンジン(陽)が回っても、十分な冷却水(陰)が循環して、オーバーヒートしない状態です。
あなたの体で起きている「空焚き」現象
しかし、30代〜50代のハイパフォーマーは、長年の激務で「エンジン(陽)」を極限まで回し続けてきました。 その結果、何が起きたか?
冷却水(陰)が蒸発して、タンクが空っぽになったのです。
エンジン自体の回転数は普通でも、冷やす水がないから、熱がこもる。 これを漢方用語で**「虚熱(きょねつ)」**と呼びます。
「本物の熱」ではなく、「冷やす力不足による相対的な熱」。 これが、あなたの不眠の正体です。 火事ではないけれど、ボヤがずっと続いている。いわば**「体の空焚き」**です。
2. センサーは嘘をつかない。「五心煩熱」のサイン
この「空焚き(陰虚)」が進むと、体はある特有のサインを出します。 古典『黄帝内経』には、**「五心煩熱(ごしんはんねつ)」**という言葉で記されています。
- 五心とは:両手の手のひら、両足の裏、そして心臓(胸)の5箇所。
- 煩熱とは:わずらわしい熱。
思い出してください。 夕方になると頬がほてる。 夜、布団から足先だけ出したくなる。 冷たい水を異常に欲しがる。
これらは全て、「ラジエーター液不足」のアラートです。 サーモグラフィで見れば、体の中心から逃げ場を失った熱が、手足にくすぶっているのが分かるでしょう。
この状態で「グリシン」を飲んでも、「睡眠導入剤」を飲んでも、焼け石に水です。 システム自体が物理的に熱を持っているのですから。
3. 【警告】その「健康習慣」が、寿命を削っている
ここからが本題です。 多くの経営者が、この「陰虚(ほてり)」を「冷え性」と勘違いして、真逆の対策をして自滅しています。
以下の習慣、心当たりはありませんか?
- ×「健康のために、サウナで汗を流す」
- 解説: 陰虚の人にとって、汗は「貴重な冷却水」そのものです。サウナで絞り出す行為は、枯渇したラジエーターに穴を開けるようなもの。整うどころか、消耗して老化が加速します。
- ×「体を温めるために、生姜や激辛料理を食べる」
- 解説: 乾燥した薪に火をつける行為です。一瞬元気になった気がするのは、燃え尽きる前の「ロウソクの最後の輝き」です。
- ×「ホットヨガでデトックス」
- 解説: これも同じです。あなたがすべきは「排出(デトックス)」ではなく「充填(チャージ)」です。
もしあなたが「陰虚タイプ」なら、これらの習慣は今すぐやめてください。 良かれと思ってやっているその努力が、あなたの不眠と疲労を悪化させています。
4. 解決策:エンジンを冷やす「注水」戦略
では、どうすればいいのか? 答えはシンプルです。「熱を冷まし、水を足す」。これに尽きます。
これを漢方では**「補陰(ほいん)」、あるいは「滋陰(じいん)」**と言います。
- 食材なら:
- 豚肉、鴨肉、牡蠣、アワビ、豆腐、山芋、クコの実。
- これらは体を内側から潤す「食べる冷却水」です。
- 漢方薬なら:
- **六味地黄丸(ろくみじおうがん)**などが代表的ですが、これはあくまで一例です。
- あなたの「空焚き」がどのレベルなのか(乾燥が強いのか、熱が強いのか)によって、使うべき「消火剤」は全く異なります。
結論:あなたの体質に合った「運用マニュアル」を
「冷え性だと思って温めていたら、実は陰虚(ほてり)で、逆効果だった」 私の薬局に来る経営者の3人に1人が、このパターンで体を壊しています。
自分の体を、間違ったマニュアルで操作していませんか? ラジエーターが壊れているフェラーリを、アクセル全開で走らせていませんか?
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エンジンが焼き付いて(=大病を患って)廃車になる前に、一度ピットインしてください。 メンテナンスさえすれば、あなたのパフォーマンスはまだ戻ります。
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