漢方で考える「お酒に強い/弱い」体質。五臓でみる肝臓への負担

【導入】なぜ、A社長は一晩中飲んでも平気なのか?

前回の記事では、西洋医学的な「解毒のメカニズム(CYP酵素)」について解説しました。遺伝子レベルでアルコール分解能力が決まっていることは、科学的な事実です。

しかし、ビジネスの現場ではこんな疑問が湧きませんか? 「遺伝子で決まっているはずなのに、なぜ体調によって酔い方が違うのか?」 「なぜ、同じ『酒豪』でも、健康であり続ける人と、突然倒れる人がいるのか?」

私たちはビジネスにおいて、市場環境や自社のリソース(資源)に合わせて戦略を変えます。体も同じです。遺伝子という「初期スペック」は変えられませんが、日々の「運用オペレーション」は最適化できます。

今回は、東洋医学(漢方)の視点から、お酒に対する強さを「身体というシステムの処理能力」として再定義し、あなたの体質に合った経営戦略(養生法)を提案します。


【翻訳】肝臓=「廃棄物処理プラント」の稼働状況

漢方では、肝臓の機能を「疎泄(そせつ)」と呼びます。これは、全身の気(エネルギー)や血(栄養)をスムーズに流し、情緒を安定させ、解毒を行う、いわば「身体の物流・処理センター」の役割です。

アルコールという「大量の緊急タスク」が入ってきたとき、このセンターがどう反応するか。漢方では主に2つのパターンで捉えます。

1. 湿熱(しつねつ)タイプ:高稼働・高排熱の「ブラック工場」

いわゆる「お酒に強い人」です。 処理能力(代謝)が高いため、大量のアルコールを次々とさばけます。しかし、工場の機械がフル稼働すれば熱を持つように、体内には猛烈な「熱」がこもります。さらに、過剰な飲食による水分や汚れが「湿(ヘドロ)」として溜まります。

  • ビジネス換算: 売上(飲酒量)は高いが、現場は過重労働で悲鳴を上げている状態。設備投資(ケア)なしで酷使しているため、見えないところで「老朽化」が進んでいます。

2. 気虚(ききょ)・寒湿(かんしつ)タイプ:キャパ不足の「中小工場」

いわゆる「お酒に弱い人」です。 処理に必要なエネルギー(気)が不足しているか、体が冷えていて機能が落ちています。 アルコールが入るとすぐに処理が追いつかなくなり、顔面蒼白、冷や汗、下痢といった「システムエラー」を起こします。

  • ビジネス換算: リソース不足で、大型案件(飲み会)を受注できない状態。無理に受注すれば、即座に業務停止(ダウン)に追い込まれます。

【危機】「強い人」ほど危ない、黒字倒産のシナリオ

ここで警鐘を鳴らしたいのは、むしろ「自分はお酒に強い」と自負している方です。

湿熱タイプの方は、自覚症状(二日酔いや頭痛)が出にくいため、限界まで飲み続けてしまいます。その結果、体内に蓄積した「熱」と「湿」は、ある日突然、血管を詰まらせたり(脳梗塞・心筋梗塞)、痛風発作という形で爆発します。

これは経営で言う「黒字倒産」です。 表面上の業績(体力)は良いのに、内部留保(真の健康)が枯渇し、キャッシュフローがショートして突然死する。これが最も避けるべきシナリオです。

一方、弱い人は「飲めない」ことで強制的にストップがかかるため、致命的なダメージは負いにくい。しかし、付き合いで無理をして飲み続ければ、慢性的なエネルギー不足(気虚)に陥り、パフォーマンスが低下する「ジリ貧経営」となります。

【図解:肝臓タイプ別・崩壊シナリオ】 (ここにインフォグラフィックが入る想定)

  • 湿熱タイプ(酒豪): グラフは高水準で推移するが、ある一点で垂直落下(突然死・重病)。背景には「ドロドロの血液」「真っ赤な舌」。
  • 気虚タイプ(下戸): グラフは低空飛行。無理をするとさらに低下し、浮上できない。背景には「冷えたお腹」「ギザギザの舌」。

【解決】「とりあえずウコン」は投資ミスである

では、どう戦略を立てるべきか。 多くの人が「飲み会=ウコン」と考えがちですが、漢方の視点ではこれは「投資先の選定ミス」になることがあります。

ウコン(春ウコン・秋ウコン)は、基本的に「温める」性質を持ち、気血を巡らせる生薬です。 これらは「冷えて巡りが悪いタイプ」には有効ですが、すでに熱がこもっている「湿熱タイプ(酒豪・赤ら顔)」が飲むと、火に油を注ぐことになりかねません。

1. 湿熱タイプへの投資(酒豪向け)

必要なのは「冷却システム」と「排熱ダクト」の強化です。

  • 戦略: 清熱利湿(せいねつりしつ)
  • 推奨成分(生薬):
    • 茵蔯蒿(インチンコウ): 肝臓の湿熱を取り除き、黄疸や炎症を抑える。
    • 山梔子(サンシシ): こもった熱を冷ます。
  • 代表処方: 茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)。

2. 寒湿タイプへの投資(下戸・冷え性向け)

必要なのは「ボイラー室」の強化と「排水ポンプ」の設置です。

  • 戦略: 温陽利水(おんようりすい)
  • 推奨成分(生薬):
    • 桂皮(ケイヒ): 体を温め、血流を促す。
    • 白朮(ビャクジュツ)・茯苓(ブクリョウ): 余分な水を排出する。
  • 代表処方: 五苓散(ゴレイサン)、人参湯(ニンジントウ)。
    • ※特に五苓散は、「アルコールによる水毒(むくみ・頭痛)」を素早く排出するため、二日酔い予防のファーストチョイスとして非常に優秀です。

【結論】あなたの肝臓の「損益分岐点」を見極める

お酒との付き合い方に、万人に共通する正解はありません。 「ウコンを飲んでおけばOK」というのは、誰彼構わず同じ金融商品勧めるようなものです。

  • あなたの舌は赤いですか? 白っぽいですか?
  • お酒を飲むと、暑くなりますか? 寒くなりますか?
  • 翌日に残るのは、頭痛(熱)ですか? それとも胃のチャポチャポ感(水)ですか?

これらのサインを読み解き、自分の体質(証)に合った「生薬」を戦略的に投入すること。それが、長く現役でパフォーマンスを発揮するための「リスクヘッジ投資」です。

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