ヨーグルトや乳酸菌飲料で「便秘が悪化する」体質がある?
「腸活」のパラドックス
「健康のために、毎朝欠かさずヨーグルトを食べています」 「便秘気味だから、話題の乳酸菌飲料をケース買いして飲んでいます」
健康意識の高いビジネスパーソンにとって、腸内環境を整える「腸活」はもはや必須科目のようになっています。 しかし、ここに奇妙なパラドックスがあります。
「良かれと思って発酵食品を食べているのに、なぜかお腹がパンパンに張る」 「おならが止まらないし、便秘も解消されない」
もしあなたがこの違和感を感じているなら、その直感は正しいかもしれません。 最新の医学的知見によれば、ヨーグルトや特定の乳酸菌が、ある体質の人にとっては逆効果(毒)になることが明らかになってきているからです。
今日は、あなたの腸活戦略を根本から覆すかもしれない「SIBO」と「FODMAP」の話、そして東洋医学的な「冷え」のリスクについて解説します。
医学が暴く「発酵食品」の副作用
「善玉菌は多ければ多いほど良い」というのは、実は古い常識になりつつあります。問題は「菌の量」ではなく、「菌がいる場所」と「相性」です。
1. 小腸で菌が爆発する「SIBO(シーボ)」
通常、腸内細菌の99%は「大腸」に住んでいます。栄養吸収を行う「小腸」には、本来あまり菌がいません。 しかし、ストレスや胃酸抑制剤の使用、不規則な食生活などが原因で、大腸の菌が小腸へ逆流・増殖してしまう病態があります。 これをSIBO(小腸内細菌増殖症)と呼びます。
この状態でヨーグルト(菌のエサとなる糖質)が入ってくると、どうなるか? 本来は大腸で行われるべき「発酵」が、狭い小腸の中で爆発的に起こります。 その結果、大量のガスが発生し、小腸が風船のように膨らみます。これが、食後の「腹部膨満感(お腹の張り)」や、「ガス腹」の正体です。
2. 日本人の弱点「高FODMAP食品」
もう一つのキーワードが「FODMAP(フォドマップ)」です。 これは、小腸で吸収されにくく、異常発酵を起こしやすい4種類の糖質の総称です。
- Fermentable(発酵性の)
- Oligosaccharides(オリゴ糖:豆類、小麦など)
- Disaccharides(二糖類:乳糖=ヨーグルト・牛乳)
- Monosaccharides(単糖類:果糖)
- And Polyols(ポリオール:キシリトールなど)
ヨーグルトに含まれる「乳糖(ラクトース)」は、高FODMAP食品の代表です。 特に日本人の多くは、乳糖を分解する酵素が少ない「乳糖不耐症」の傾向があります。 分解できない乳糖は、小腸内で菌の格好のエサとなり、ガスを発生させ、腸内に水を引き込んで下痢や腹痛を引き起こします。
つまり、SIBO傾向のある人がヨーグルトを食べることは、「火事(炎症)」に「ガソリン(発酵糖質)」を注ぐようなものなのです。
東洋医学で見る「冷たいドロドロ」の害
では、東洋医学(漢方)ではヨーグルトをどう見るでしょうか。 漢方の視点でも、実はヨーグルトは「扱いが難しい食品」とされています。
「寒湿(かんしつ)」の性質
ヨーグルトは、冷蔵庫で冷やして食べるため、性質は「極めて寒(体を冷やす)」です。 さらに、あの粘り気のある質感は、体内に停滞しやすい「湿(しつ)」を生み出します。
日本人の腸トラブルで最も多いのは、消化器系(脾胃)が冷えて弱っている「脾気虚(ひききょ)」タイプです。 ただでさえ弱っている胃腸に、冷たくて湿っぽいヨーグルトを毎日流し込むと、胃の消化の火(陽気)が消えてしまいます。
結果として、腸の動きが鈍くなり、便秘が悪化したり、未消化物が溜まってヘドロ化(湿熱)したりします。
「引き算」という戦略的撤退
もし、あなたが「お腹の張り」や「ガス」に悩んでいるなら、試すべきは「新しい菌のサプリ」を買うことではありません。 2週間だけ、ヨーグルトや納豆などの発酵食品を完全にやめてみる(低FODMAP食)ことです。
これを「除去食テスト」と言います。 もしそれで体調が劇的に良くなるなら、あなたの体は「発酵食品が合わないフェーズ」にあるということです。
「自分の腸タイプがわからない」「何を食べていいか迷子になっている」 そんな方は、パーソナル健康コンサルをご利用ください。 最新の栄養学(FODMAP)と、伝統的な漢方(五臓)を組み合わせ、あなたのお腹に平安をもたらす食事戦略を提案します。
【参考文献・リンク】
本記事の執筆にあたり、以下の医学的研究およびガイドラインを参照いたしました。
-
SIBO(小腸内細菌増殖症)とIBS
- Pimentel M, et al. (2020). “ACG Clinical Guideline: Small Intestinal Bacterial Overgrowth.” The American Journal of Gastroenterology.
- 江田 証. 『小腸を強くすれば病気にならない』 (SIBO研究の国内第一人者による解説)
-
FODMAPと消化器症状
- Monash University. “Low FODMAP Diet” (FODMAP食の発祥、モナッシュ大学の公式リソース)
- Gibson PR, Shepherd SJ. (2010). “Evidence-based dietary management of functional gastrointestinal symptoms: The FODMAP approach.”
-
乳糖不耐症と日本人
- 日本消化器病学会. 乳糖不耐症の疫学データ(日本人の約7-8割が乳糖分解酵素活性が低いとされる)