漢方で考える「胃腸の弱い人」の食事術。脾と胃の役割

ランチ後の眠気は「能力不足」ではなく「電力不足」

「昼食を食べると、午後は使い物にならないほど眠い」 「朝は食欲がなく、コーヒーだけで済ませている」 「しっかり食べているはずなのに、なぜか疲れが取れない」

多忙な経営者やハイパフォーマーの方々から、頻繁にこのような相談を受けます。 多くの人はこれを「血糖値スパイクのせい」あるいは「年齢による代謝の低下」と片付けがちです。

しかし、東洋医学(漢方)の視座に立つと、別の原因が見えてきます。 それは、あなたが食べたものをエネルギー(気)に変換するシステム、「脾(ひ)」の機能不全です。

今日は、あなたの体内で起きている「エネルギー生産ライン」のトラブルを、漢方のロジックで解明し、V字回復させるための食事戦略を提案します。

「胃」は倉庫、「脾」は発電所

漢方では、消化吸収システムを「脾胃(ひい)」と呼びますが、その役割はビジネスのサプライチェーンに例えると非常に明確になります。

  • 胃(Stomach)=「倉庫(受入・保管)」
    • 食べ物を受け入れ、一時保管し、ドロドロに腐熟させる場所。
    • ここが強いと「食欲」はあります。しかし、倉庫が強いだけではエネルギーにはなりません。
  • 脾(Spleen)=「発電所 兼 物流センター(変換・配送)」
    • 胃で処理されたものから、「気(エネルギー)」と「血(栄養)」という製品を作り出す場所。
    • さらに、作り出したエネルギーを筋肉や脳へ配送する(運化)役割も担います。

「脾気虚」というシステムエラー

日本人の胃腸トラブルの大半は、倉庫(胃)ではなく、発電所(脾)の出力低下にあります。これを「脾気虚(ひききょ)」と呼びます。

発電所が動いていないのに、倉庫にどんどん荷物(食べ物)を入れるとどうなるか? 荷物は処理されずに積み上がり(胃もたれ)、腐敗してガスが発生し(腹部膨満感)、肝心の電力(気)は供給されません。 結果、「食べているのに、ガス欠」というパラドックスが起こります。食後の異常な眠気は、消化に全エネルギーを持っていかれ、脳への送電がストップした状態なのです。


冷たい水は「生産ライン」を破壊する

この重要な発電所(脾)には、致命的な弱点があります。 それは「湿気」と「冷え」を極端に嫌うことです(脾は燥を好み湿を嫌う)。

良かれと思ってやっている以下の習慣が、実は発電所を水没させています。

  1. 氷入りの水、冷えたビール:
    • ボイラー(脾の陽気)に冷水を浴びせる行為です。火が消えれば、消化吸収プロセスは即座に停止します。
  2. 生野菜サラダ、刺し身:
    • 酵素やビタミンは大事ですが、漢方では「生もの」は消化に膨大な熱エネルギーを消費する「高コスト食材」です。弱った脾には荷が重すぎます。
  3. 「ながら食べ」と早食い:
    • 「思いは脾を傷る」と言います。PCを見ながら食事をすると、気が脳に集まり、胃腸への血流が遮断されます。その状態で噛まずに流し込めば、ライン詰まりは確実です。

【図解:健康な脾 vs 弱った脾】

  • 健康な脾(黒字企業): 温かく乾燥した工場。材料が入ると即座にエネルギー(気)に変換され、全身に活力がみなぎる。
  • 弱った脾(赤字企業): 冷たくジメジメした工場。材料がヘドロ(湿)となって滞留。全身が重だるく、むくみや下痢が続く。

「黄色・甘味・温熱」への投資戦略

弱った発電所を再稼働させるための、具体的な投資戦略(食事術)は以下の通りです。

1. 「温」の食材を選ぶ

とにかく胃腸を温めること。これに尽きます。

  • 推奨: 味噌汁、スープ、鍋物、おかゆ、生姜、シナモン。
  • 戦略: 朝一番に「白湯」を一杯飲む。これだけでボイラーの種火がつきます。

2. 「土(黄色・甘味)」を補う

五行説において、脾は「土」に属し、「黄色」と「自然な甘味」に対応します。

  • 推奨食材:
    • 穀類: 白米(玄米は消化が悪いのでNG)、もち米。
    • 根菜: かぼちゃ、さつまいも、じゃがいも、人参。
    • 豆類: 豆腐(湯豆腐)、納豆。
  • これらは、脾の機能をブーストさせる「ハイオク燃料」です。疲れた時ほど、甘いお菓子(砂糖の甘味)ではなく、ふかした芋や栗(自然の甘味)を食べてください。

3. 漢方薬による「設備改修」

食事だけでは追いつかない場合、漢方薬という「外部コンサル」を入れます。

  • 六君子湯(リックンシトウ):
    • 胃に溜まった水(湿)をさばき、気の巡りを良くする。胃もたれ・食欲不振のファーストチョイス。
  • 補中益気湯(ホチュウエッキトウ):
    • 「中(お腹)」を補い、「気」を益す(増やす)。胃腸虚弱による慢性疲労、だるさ、風邪を引きやすい人に。

胃腸の強さは、ビジネスの「基礎体力」

「胃腸が弱い」というのは、単なる体質の話ではありません。 「エネルギーを生み出す効率が悪い」という、ビジネスにおける致命的なボトルネックです。

あなたがどれだけ素晴らしい戦略(脳の機能)を持っていても、それを実行するエネルギー(脾の機能)がなければ、成果は出ません。

  • 自分は「脾気虚」なのか、それともストレスによる「肝脾不和」なのか?
  • 今の食事は、自分の胃腸スペックに合っているのか?

自己流の食事制限やサプリメントで迷走する前に、一度パーソナル健康コンサルで、あなたの「内なる発電所」の診断を受けてみませんか? 最適な燃料とメンテナンス方法を知ることは、あなたのキャリアを長く支える最強の投資になります。

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