薬理学第011章:自律神経系の解剖と神経伝達物質概論

医スク体系「薬理学」Part II — 神経系薬の基盤

医スク学術体系 | 薬理学 Chapter 011 Last updated: 2026-04-29


Topic 1:自律神経系の概要と分類

自律神経系(Autonomic Nervous System: ANS)は、意識的なコントロールを必要とせず、内臓・血管・腺などの不随意機能を調節する末梢神経系の一部門である。

分類:

系統 別名 主要機能 優位な状況
交感神経系 胸腰系(Thoracolumbar) 闘争・逃走反応(Fight or Flight) ストレス・運動・緊急時
副交感神経系 頭仙系(Craniosacral) 休息・消化反応(Rest and Digest) 安静・食後・睡眠

両系統はほとんどの標的臓器に対して拮抗的に作用し、臓器の機能は両系統のバランスによって決定される。例外として、汗腺・副腎髄質・一部の血管は交感神経のみの支配を受ける。


Topic 2:ニューロンの二段階構造(節前線維と節後線維)

自律神経系は、末梢への伝達において必ず2つのニューロンを介する。これは体性運動神経(1ニューロン)と根本的に異なる。

CNS(脊髄・脳幹)
    ↓ 節前線維(Preganglionic Fiber)
神経節(Ganglion)※シナプス
    ↓ 節後線維(Postganglionic Fiber)
標的臓器(心臓・平滑筋・腺)

節前線維:

  • 有髄のB線維
  • 交感神経:脊髄側角(T1〜L2/3)から出る
  • 副交感神経:脳幹(Ⅲ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ神経)および仙髄(S2〜4)から出る

節後線維:

  • 無髄のC線維
  • 交感神経:節後線維は長い(椎傍神経節・椎前神経節から標的臓器まで)
  • 副交感神経:節後線維は短い(壁内神経節が標的臓器の近傍に位置)

Topic 3:神経伝達物質と受容体の対応

自律神経系における神経伝達は、シナプス前膜からの伝達物質放出→シナプス後膜の受容体への結合により成立する。

交感神経系の伝達物質

部位 伝達物質 受容体
節前→節後(神経節) アセチルコリン(ACh) ニコチン受容体(NM型)
節後→標的臓器(大部分) ノルアドレナリン(NA) アドレナリン受容体(α/β)
節後→汗腺(例外) アセチルコリン(ACh) ムスカリン受容体(M3)
節前→副腎髄質(特殊) アセチルコリン(ACh) ニコチン受容体(NN型)

副腎髄質は変形した節後ニューロンとみなされ、刺激を受けてアドレナリン(80%)とノルアドレナリン(20%)を血中に放出する。

副交感神経系の伝達物質

部位 伝達物質 受容体
節前→節後(神経節) アセチルコリン(ACh) ニコチン受容体(NM型)
節後→標的臓器 アセチルコリン(ACh) ムスカリン受容体(M1〜M5)

副交感神経系はすべての段階でAChを使用する。


Topic 4:アセチルコリン(ACh)の合成・放出・分解

AChはコリン作動性ニューロンで合成される主要な神経伝達物質である。

合成:

コリン + アセチルCoA → アセチルコリン(触媒:コリンアセチルトランスフェラーゼ)

コリンは神経終末に存在するトランスポーター(CHT: Choline Transporter)により再取り込みされる。この再取り込みがAChの合成速度の律速段階となる。

放出:

  • シナプス小胞に貯蔵されたAChは、活動電位によるCa²⁺流入を契機として開口分泌(エキソサイトーシス)で放出される

分解:

アセチルコリン → コリン + 酢酸(触媒:アセチルコリンエステラーゼ)

分解はシナプス間隙で速やかに(ミリ秒単位)進行する。コリンは神経終末に再取り込みされてAChの合成に再利用される。

薬理学的介入点:

  • コリンエステラーゼ阻害薬(ネオスチグミン・フィゾスチグミン・ドネペジル)→ ACh濃度を上昇させる(→ Chapter 020参照)

Topic 5:ノルアドレナリン(NA)の合成・放出・分解・再取り込み

NAはアドレナリン作動性ニューロン(交感神経節後線維)で合成される。

合成経路(チロシンから):

チロシン
    ↓ チロシン水酸化酵素(律速酵素)
ドーパ(DOPA)
    ↓ ドーパ脱炭酸酵素
ドーパミン(DA)
    ↓ ドーパミンβ水酸化酵素(DBH)
ノルアドレナリン(NA)
    ↓ フェニルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ(副腎髄質のみ)
アドレナリン(Adr)

放出・再取り込み・分解:

過程 機序 関連薬
放出 Ca²⁺依存性開口分泌 グアネチジン(放出阻害)
再取り込み(主経路) NET(ノルアドレナリントランスポーター) コカイン・TCA・SNRIが阻害
分解(細胞内) MAO(モノアミン酸化酵素) MAO阻害薬が阻害
分解(シナプス間隙) COMT(カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ) エンタカポンが阻害

NETによる再取り込みが消失の主経路であり、シナプス間隙でのNAの消失はAChの分解(コリンエステラーゼ)ほど速くない。


Topic 6:アドレナリン受容体(α・β)の分布と機能

アドレナリン受容体(アドレノセプター)はすべてGタンパク質共役受容体(GPCR)であり、4種のサブタイプを持つ。

受容体 共役Gタンパク 主要分布 活性化による効果
α1 Gq → PLC → IP3/DAG 血管平滑筋・虹彩散瞳筋 血管収縮・散瞳・尿道収縮
α2 Gi → adenylyl cyclase↓ 節前終末(自己受容体)・血小板 NA放出抑制・血小板凝集
β1 Gs → adenylyl cyclase↑ → PKA 心筋 心拍数↑・収縮力↑
β2 Gs → adenylyl cyclase↑ → PKA 気管支平滑筋・血管・子宮 気管支拡張・血管拡張・子宮弛緩
β3 Gs → adenylyl cyclase↑ 脂肪組織・膀胱排尿筋 脂肪分解・膀胱弛緩

α2受容体はシナプス前膜に存在する自己受容体として機能し、NA放出のフィードバック抑制を担う。クロニジン(α2作動薬)はこの機構を介して中枢性降圧作用を発揮する(→ Chapter 013参照)。


Topic 7:ムスカリン受容体(M1〜M5)の分布と機能

ムスカリン受容体はすべてGPCRであり、副交感神経節後線維の標的臓器に発現する。

受容体 共役Gタンパク 主要分布 活性化による効果
M1 Gq 神経・胃壁細胞 胃酸分泌↑・CNS興奮
M2 Gi 心筋(SA節・AV節) 心拍数↓・房室伝導↓
M3 Gq 平滑筋・腺 気管支収縮・腸蠕動↑・分泌↑・瞳孔縮小
M4 Gi CNS 神経調節
M5 Gq CNS・血管 血管拡張(NO産生)

臨床的に最も重要なのはM2(心臓)とM3(平滑筋・腺)である。抗コリン薬(アトロピン)の副作用(口渇・頻脈・散瞳・尿閉・便秘)はM1〜M3の遮断により説明される(→ Chapter 021参照)。


Topic 8:ニコチン受容体(NM・NN)の構造と機能

ニコチン受容体はリガンド依存性イオンチャネル(Na⁺/K⁺チャネル)であり、AChへの応答は速い(ミリ秒単位)。

分布 機能
NN(Neuronal) 自律神経節・CNS 節前→節後の神経節伝達
NM(Muscle) 神経筋接合部 体性運動神経→骨格筋収縮

両型はサブユニット構成が異なり、薬物選択性の差がある(筋弛緩薬はNMを選択的に遮断、→ Chapter 022参照)。


Topic 9:臓器別の自律神経支配まとめ

臓器 交感神経刺激 副交感神経刺激
心臓(SA節) 心拍数↑(β1) 心拍数↓(M2)
心臓(収縮力) 収縮力↑(β1) 収縮力↓(心房のみ、M2)
血管(大部分) 収縮(α1) 拡張(NO産生、M3)
気管支 拡張(β2) 収縮(M3)
消化管(蠕動) 抑制(α2・β2) 促進(M3)
消化管(括約筋) 収縮(α1) 弛緩(M3)
瞳孔 散瞳(α1、散瞳筋収縮) 縮瞳(M3、括約筋収縮)
毛様体筋 弛緩(β2、遠視化) 収縮(M3、近視化・調節)
唾液腺 粘性分泌↑(α1) 漿液性分泌↑(M3)
汗腺 分泌↑(M3、例外) なし
膀胱(排尿筋) 弛緩(β3) 収縮(M3)
膀胱(括約筋) 収縮(α1) 弛緩(M3)
副腎髄質 Adr/NA放出(NN) なし

確認クイズ

  1. 交感神経の節前→節後シナプスで放出される神経伝達物質と受容体の型を答えよ。
  2. ノルアドレナリンの再取り込みを担うトランスポーターの略称を答えよ。
  3. M2受容体の主要分布と活性化による心臓への効果を答えよ。
  4. 副腎髄質が分泌するカテコールアミンの比率を答えよ。
  5. α2受容体が自己受容体として機能する意義を説明せよ。

参考文献

  1. Brunton LL, et al. Goodman & Gilman’s: The Pharmacological Basis of Therapeutics. 14th ed. McGraw-Hill. 2023.
  2. Rang HP, et al. Rang & Dale’s Pharmacology. 9th ed. Elsevier. 2019.
  3. 田中千賀子・加藤隆一(編). NEW薬理学. 第8版. 南江堂. 2022.
  4. 日本薬理学会(編). 薬理学テキスト. 第5版. 南山堂. 2021.

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